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福岡家庭裁判所 昭和48年(少)3739号 決定

少年 D・G(昭三四・三・七生)

主文

少年に対し強制的措置をとることを許可しない。

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

本件記録中の昭和四八年五月一日付司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実、昭和四八年六月二一日付司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実、昭和四八年一〇月二二日付司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実のとおりであるので、これを引用する。

(法令の適用)

刑法二三五条、同法二〇八条同法二〇四条

(処遇)

福岡市児童相談所長から少年に対しては強制的措置を必要とするので審判に付するのを適当と認め送致するとし、審判に付すべき事由として、少年は父母と共に現住所に居住し、○○中学に在学していたが、全然登校せず、同校や他校の不良少年と交遊関係をもち、喫煙、夜遊び不純異性交遊等虞犯行為を重ね、また窃盗、暴行等の触法行為も多く、昭和四八年三月六日、同二八日の二回にわたる児童相談所での一時保護の後、同年同月二九日付で教護院に措置されたものである。少年は児童相談所における一時保護中、二度とも無断退去したが、教護院措置後三回にわたり無断退去し、同年四月二六日○○学園長より学園での教護に対し、反省の色なく、ますます悪化の傾向をたどつているので、処遇について変更してほしい旨申請された。児童相談所において措置会議の結果、少年の両親はろう唖者で、少年との対話において欠けるところがあり、放任状態で家庭監護が望めないこと、また○○学園で教護では、指導が困難である以上、少年の非行性を除去し、その社会適応性を養い、また義務教育を終了させるためには、少年を強制的措置に付するのが適当であると思料されるので送致する、というにある。

家庭裁判所調査官吉川晴海の調査結果、本件記録中の○○学園長の処遇についての変更申請書、少年の非行歴、少年のケース記録、○○中学校長の申立書、当審判廷における少年の陳述等によれば上記の審判に付すべき事由を認めることができ、本件申請は相当であり、少年に対しては強制的措置も適切な保護策であるといえなくもない。

然し、少年が上記のような乱れた行動経過を辿るようになつた要因が奈辺にあつたかを考えてみるに、鑑別所の鑑別結果に現われた少年の性格、地域環境の悪さ、身体障害者である保護者の保護能力の欠如、特に保護者がろう唖者であるところから少年との対話に欠け、殆んど放任状態に置かれた点にあつたものと考え、適切な監護教育と環境の整備がなされることによつて是正できるものと考え、川口県○○市に於て、少年の実父母の近くに生活している少年の叔母(父方)が非行化傾向にあつた少年の姉を引き取つて更生させた実績を評価し、叔母の指導監督下に更生を計ることができることを期待し、調査官の試験観察に付したところ、少年は旬日を経ないうちに叔母のもとから逃走し、各地を転々とするうちに、本件少第三七三九号事件の暴行、傷害に及び、福岡に帰住し、○橋○子なる女性と同棲し、生活の糧に一三件もの窃盗を働いた(未送致、少年の自供による)ものである。

小年に対しては、試験観察もその効果に見るべきものがなく、叔母の監護指導も何等発揮することなく終つたものである。少年の非行性はその根が深く、それの除去には相当困難なものがあるといえる。

少年の健全なる育成を計るためには、強力なる矯正教育が必要である。本件申請の強制措置では十分といえないので本件強制措置申請は児童福祉法二七条の二、少年法三条一項三号、同法六条三項を適用してこれを許可しないこととし、少年に対しては同法二四条一項三号少年院二条二項により初等少年院に送致することとして主文のとおり決定する。

(裁判官 兼島方信)

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